はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
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発達障害(高機能自閉症)と診断された2013年生まれの息子との日々を綴っています。
8月も終わりに近づきましたね。今年は雨がつづき、夏を満喫した感じがうすいのですが、みなさんはいかがでしたか?
我が家は……
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ようちえんのお迎えやスーパーの帰り道、手をつないで歩いていきます。
荷物を片方の手にぶら下げて、もう一方の手でしょうの手を握ります。ゆっくりとした足取りで歩道を行きます。
「今日はなにしたのー?」
「楽しかったー?」
そんなふうに声をかけるのが日課ですが、しょうは道ばたの草や石ころに意識がいっていて問いかけにはたいてい答えはありません。
うだるような暑さだったのが今日は少し引いています。鳴きつづけていた蝉の声が変わってきました。
「おかーさん」
呼びかけられたので「なぁに?」と返事をして顔をむけました。目があうとニコリと笑ったまま何も言いません。もう一度「なぁに?」と聞くと、もう一回呼ばれました。
「おかーさん♩」
軽くリズムがついています。私もそれに返します。
「なぁに?♩」
繰り返しのことば遊びです。
おかーさん♩ なあーに♩
おかーさん♩ なあーに♩
おかーさん♩ なあーに♩
つないでいた手もリズムに合わせて揺らします。
あはははーと笑って止まったことば遊びを、今度は私から。
しょーうくん♩ おかーさん♩
しょーうくん♩ おかーさん♩
くり返される響きが心地よくて、しぜんと笑顔がこぼれてきます。
声とつないだ手、無邪気な笑顔、家までのかえり道、この一瞬にほんとうに私は幸せだなぁと思うのです。この記憶は私のなかにずっとずっと残るだろうな、そう思ってにぎった手に力をこめました。
毎日があわただしくて急いで家路につきたいといつも思ってしまうんですが、こういう時間は"今しかない"。子育て中の、ムダで貴重な時間。
何かが目の前をスーッと横切りました。とんぼです。少し前には見なかったのに空を自由に飛び交っています。みつけたら急に蝉のこえが遠退いた気がしました。
「おかぁーさーん、」
さっきと違う声に、私もゆっくり返しました。
「なぁに?」
「たいようさん かえっちゃうね〜。」
西の空が少しずつ色づいてきました。日が暮れてくるのも徐々に早くなってきています。
うすい雲はグラデーションを織りなして輝き、しょうの顔をあかく照らします。
「また あした だね。」
「たいようさん、ばいばーい。」
しょうは一週間の時間感覚がついてきました。"5回ようちえんに行くと2回おやすみ"がわかるように。
初めてクワガタ虫を飼いました。怖いから見るの専門、お世話はお父さんですが。
プールでお顔をつけられるようなりました。
この夏でずいぶん男の子っぽくなりました。
こうして、またひとつ季節を超えていく。
その一瞬を、その姿を、心に焼きつけていきたいのです。
↓ 一年前を振り返ってみると……。
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