はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
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これは、息子がもっと小さい頃、やっと二、三語のお話ができるようになった頃のおはなしです。
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お散歩に出ると梅の花がひらいてきて、夜はまだ冬の名残をかんじるような時期でした。
そんなある夜、お風呂でほかほかになって出てきた息子。
湯気があがった小さな体で、お気にいりのタオルを抱きしめました。
タオルにはウサギさんなどの動物のアップリケがついています。
ふわふわタオルが大好きな息子は、タオルを抱えたまま裸で楽しそうにお歌をうたっていました。
さあさあ、体を拭こうねー、とタオルを取ろうとしても貸してくれません。
髪からは水滴がぽとんと落ちておでこを伝います。
冷えてカゼひいちゃうから、と私は困ったなぁとどうしようかと考えていました。
ふとした隙にタオルを取って広げると、息子が叫びます。
「だめーー!
……。
あー、うさぎさん しろく なっちゃった。」
目をまんまるにして瞬きも忘れるほど、うさぎさんを見ています。
息子が見たのはタオルの裏側だったのです。アップリケの裏側なので動物さんたちの色がみんな無くなってしまったように見えたようでした。
それを聞いた私は、
「ほんとうだー、おふろ 出て寒くなっちゃんたんだね。みんな まっしろだー。
はやく服着よう。」
と息子に話しました。
息子は慌てて
「わー、しゃむいよー(さむいよ)。どらいやー してあげて!」
と急がせました。
パジャマを着せ、タオルで頭を拭きながらドライヤーをかけました。
髪が乾いたので、ほら温かくなったねと私は言いながら、丸めてあったタオルを広げて見せました。
今度は表側がみえるようにして。
「あー、ぴんく なったぁ!」
と目を輝かせて上気したぷくぷくのほっぺで、嬉しそうにうさぎさんに頬ずりしていました。
「showが 温かくなって、ほっぺも うさぎさんと おんなじ色になってるよ。
うさぎさんも うれしいんだね。」
それを聞いて、ますます仲良くふたりはくっつくのでした。
息子はぬいぐるみやアップリケを本物かのように愛おしんで可愛がります。
うさぎさんに色がもどったときも、本当にうれしそうでした。
それからお風呂あがりにタオルを使うときは「うさぎさん しろく なっちゃう?」と何度もなんども聞くのです。
showが裸んぼうのときはタオルの裏を、パジャマを着たら表のアップリケを見せてあげると安心するようです。
こんな子どもだましに(子どもなんですけれど)毎回、真剣に驚き、あわてて、安心する姿が可愛くてかわいくて。
子どもは純粋ですね。
そんなしょうももう少しで4歳になります。
タネ明かしはしていませんが、さすがにもう気がついているかな?
そのままでいて欲しいような、信じたままならばそれはそれで心配になってしまうでしょうね。
写真はじっさいに使っていたタオルです。
使いこんで繊維もすっかり薄くなってしまいました。この件があってから、しょうはこのタオルがいい!と駄々をこねるので、こればかり使っていました。
それだけに思い入れもあって断捨離できない品物でもあります。
これを書いて踏ん切りをつけられるかなと思ってましたが、やはりもうしばらく手元に置いておこうと思います。
私の中の宝物のエピソードです。
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